けっこう昔から、SNSなどのインターネット上でのなりすまし(やそれによる被害)は多くある印象を抱いていました。
私自身はわざわざなりすまされるような人間ではないし、インターネットの特性を考えればどうしようもないのかなーくらいに思っていたのですが……
最近、これについて新しく「なりすまされない権利」、「アイデンティティー権」という権利を大阪地裁がSNSで初めて認める司法判断を下していたということを知りましたので、ちょっと調べてみました。
これまでの「なりすまし行為」についての司法対応と罰
これまでではインターネット上で、例えば本人に無断で画像、住所や電話番号などの個人情報、アカウントなどを使ってなりすまし行為をした場合、そのなりすまし行為の結果によって出た被害で犯罪とされていました。
刑法上では、なりすまされた人の仕事に悪影響が出た場合や、名誉が毀損された場合には、業務妨害罪や名誉毀損罪などの犯罪だったり、
民事上では、なりすまされた人が金銭的な損害あるいは名誉や肖像権侵害など人格的な損害を被った場合に、損害賠償責任が発生したり、
また、なりすましのコメントを閲覧した人がそれを信じたために何らかの損害を負った場合、そのコメントとその損害との間に通常予測可能な程度の因果関係があれば、閲覧した人に対しても損害賠償責任も発生し得るといった感じでした。
大阪地裁でのなりすまされない権利「アイデンティティー権」についての記事
インターネットの会員制交流サイト(SNS)で、自分に成り済ました書き込みをされたとして、中部地方の男性が、プロバイダーに発信者の情報開示を求めた訴訟で、大阪地裁(佐藤哲治裁判長)が他人に成り済まされない権利を「アイデンティティー権」として認定していたことが10日、分かった。男性の代理人を務める中沢佑一弁護士(埼玉弁護士会)によると、こうした権利を認めた司法判断は初めて。
SNS上では、他人に成り済ました人物が好き勝手な情報を発信するなどの被害が問題となる一方、どこまでの行為が法的な権利侵害として損害賠償の対象になるか、明確にはなっていない。中沢弁護士は「アイデンティティー権が定着すれば、成り済まし自体が権利侵害と認められ、早期の対策や被害回復が可能になる」と話している。
判決は2月8日付。男性はSNS上で、自分の顔写真を何者かにプロフィル画像として使われ、名前をもじったアカウント名で複数の書き込みをされた。
佐藤裁判長は判決理由で、他人との関係において人格の同一性を保持する権利をアイデンティティー権と定義。自分に成り済ました人物の言動で、社会生活を送ることが困難になるほどの精神的苦痛を受けた場合には「名誉やプライバシー権とは別に、アイデンティティー権の侵害が問題になりうる」とした。
一方で、この権利について「現時点で明確な共通認識が形成されているとはいえない」とも指摘。どこまでの成り済まし行為を損害賠償の対象とするか、「判断は慎重であるべきだ」と述べた。
そのうえで、男性の成り済まし被害が1カ月余りと短期間だったことなどからアイデンティティー権の侵害を認めず、書き込みの内容も名誉毀損とまではいえないと判断、請求を棄却した。男性は判決を不服として、大阪高裁に控訴している。
引用:http://www.sankei.com/west/news/160610/wst1606100078-n1.html
簡単に言うと、成りすまされること自体が権利侵害という考え方がこの裁判で認められたということですかね。
なりすまし行為が本人の社会的評価を低下させたり、上記にあるようなパブリシティー権や商業的利益の侵害も特にないようなケースにおいても、氏名権侵害というだけで権利侵害=賠償請求が認められ得るということのようです。
今までよりもなりすまし被害防止へ
「不正アクセス行為の禁止等に関する法律」という法律は以前からありますが、これは、他人の識別符号(パスワードなど)を利用して、本来の利用権者しかできない行為を行うことなどを罰するためのもので、SNSなどで本人になりすまして発言する行為自体をしばる規律、判例は存在しなかったのです。
それが、今回はなりすまし行為自体への判例だったということですね。
ただ、今回の裁判例で報道で知らされた文章だけですと、
アイデンティティー権、氏名権の存在を認めたとしても、必ずしもなりすまし行為がその侵害として違法性を認められるかどうかは、はっきりしていません。
ただどちらにしろ、なりすましについて成り済まされない権利の「アイデンティティー権」が認められたということで、なりすましを行えば裁判にもなりかねないことを多くの人が知っていくことで、被害を抑えられるようになっていくのではないでしょうか。そうなるといいなと思います。